2021/03/27

WSL2で仮想CAN通信

  WSL2でLinuxカーネルのSocketCAN機能を使って仮想CAN通信をできるようにします。

●今回の環境

 Windows10


 ディストリビューション

 カーネルバージョン

 環境は前回と同じです。

 Linuxカーネルをビルドできる環境が必要です。下記を参考にしてビルド環境を用意してください。

●方法

 まず、SocketCAN機能、VCAN機能を有効にしたカスタムカーネルをビルドします。
 カスタムカーネルができれば、あとはCAN通信のモジュールをロードし、仮想CANデバイスを作成すれば、CANデバイスが無くてもPC内でCAN通信ができるようになります。

●カスタムカーネルの設定手順

 menuconfigを立ち上げます。
$ make menuconfig

手順1:Networking suportを有効にする


 ※選択は、項目まで↑↓キーで移動して、スペースキーを押すとできます。

手順2:CAN bus subsystem support を有効にする

 Networking support 内へ入り(リターンで入る)、CAN bus subsystem support を有効にします。


手順3:CAN通信機能の3項目を有効にする

 CAN bus subsystem support 内へ入り、さらに下記の3項目を有効にする。


 デフォルトで既にこれらの項目が有効になっていると思いますが、念のために確認しておきます。

手順4:CAN Device Drivers 内の項目を有効にする

 CAN Device Driversの中へ入り、さらに以下の設定を行います。

 Virtual Local CAN Interface (vcan) が仮想CANドライバです。
 そのほか2つがデフォルトで有効ですが、そのままにします。

手順5:設定を保存して終了する

 ここまでできたら、忘れずに設定を保存して menuconfig を終了します。
 また、Linuxカーネル名を変えておくとよいでしょう。

手順6:カーネルをビルドし、CAN通信のLKMをインストールする

$ make
$ sudo make modules_install
 → /lib/modules の下に、カーネル名でディレクトリができます。
  この下の kernel ディレクトリ以下にCAN通信に必要な*.ko ファイルが格納されます。

手順7:カスタムカーネルでWSL2を起動する

 今作った vmlinux ファイルでWSL2を再起動します。
 やり方は、以下の手順6~を参考にしてください。

手順8:CAN通信を有効にしたカーネルで起動できていることを確認する

$ uname -a
Linux earth 5.4.72-microsoft-standard-WSL2-can #1 SMP Wed Mar 27 14:20:57 JST 2021 x86_64 x86_64 x86_64 GNU/Linux

 ここまでが、CAN通信を有効にしたカスタムカーネルの作り方でした。


●仮想CAN通信デバイスを作成する

以下のコマンドを実行します。
$ sudo modprobe can
$ sudo modprobe can_raw
$ sudo modprobe vcan
$ sudo ip link add dev vcan0 type vcan
$ sudo ip link set up vcan0
 → /sys/class/net の下に、vcan0 の名前で仮想CANデバイスができます。


あとは、ふつうに仮想CAN通信をすることができます。
can-utilsも普通に使えます。

※仮想CANデバイスは、PCを再起動すると消えてしまうので、また modprobe からコマンド実行してください。

  


2021/03/21

WSL2のカーネルをカスタムビルドする

 WSL2のLinuxカーネルを、コンフィグ設定してビルド・使用します。

●今回の環境

 Windows10


 ディストリビューション

 カーネルバージョン

 環境は前回と同じです。
 前回のビルド環境をそのまま使う場合は、下記の手順3から始めてください。

●ビルド手順

手順1:カーネルソースをダウンロード

 カーネルのソースコードはGitHubのMicrosoft公式のものを使用します。
$ curl -OL https://github.com/microsoft/WSL2-Linux-Kernel/archive/linux-msft-5.4.72.tar.gz
 → linux-msft-5.4.72.tar.gz ファイルができる

 解凍します。
$ tar -zxf linux-msft-5.4.72.tar.gz
 → WSL2-Linux-Kernel-linux-msft-5.4.72 ディレクトリができる

手順2:カーネルのビルドに必要なソフトをインストール

 カーネルソース内の README-Microsoft.WSL2 ファイルの2に書かれているツールをインストールします。
 ただし、これaptでインストールするのに、sudo とinstall の間に apt が抜けているので、aptを追記して実行すること(昔から抜けてる。いいかげん直しなよ。。。)
$ sudo apt install build-essential flex bison libssl-dev libelf-dev

手順3:.configファイルの準備

 ソースのディレクトリへ入り、Microsoft/config-wsl ファイルをコピーする
$ cd WSL2-Linux-Kernel-linux-msft-5.4.72
$ cp Microsoft/config-wsl .config


手順4:.configファイルを編集

 方法はいくつかありますが、今回はmenuconfigを使ってGUIで編集します。

 事前にmenuconfig用ツールのインストールが必要
$ sudo apt install libncurses-dev

 上記のツールが入っていれば、以下のコマンドを実行
$ make menuconfig


 ここで、カーネルに組込む、またはカーネルモジュールの有効・無効を切り替えます。

 今回は、カーネルの名前を変えることとします。
 以下の項目を設定します。

 General setup   --->
   Local version - append to kernel release

 WSL2のデフォルトは「-microsoft-standard-WSL2」なので、この名前を適当に変えます。
 今回は例として「-microsoft-standard-WSL2-custom」とします。
 この設定は、「uname -r」 で表示される名前が変ります。

 書き換え出来たら、セーブして終了します。

手順5:カーネルをビルド

$ make
 → vmlinuxファイルができる

 前回はコンフィグファイルを指定しましたが、今回は先ほど作った .config を使います。

手順6:vmlinuxファイルをWindows側へコピー

 コピー先は任意の場所を使用できるが、Windowsの領域へコピーする。
 今回の例では、Windowsの%USERPROFILE%ディレクトリの下にwsl2/5.4.72-microsoft-standard-WSL2-customディレクトリを作って、そこへコピーすることにします。
 ※(Windowsのユーザー名)は各環境で変えること
 ※%USERPROFILE%ディレクトリ = c:\Users\(Windowsのユーザー名) のディレクトリ
$ mkdir -p /mnt/c/Users/(Windowsのユーザー名)/wsl2/5.4.72-microsoft-standard-WSL2-custom
$ cp vmlinux /mnt/c/Users/(Windowsのユーザー名)/wsl2/5.4.72-microsoft-standard-WSL2-custom

手順7:.wslconfigファイルで使用するlinuxカーネルを指定する

 %USERPROFILE%ディレクトリの直下に .wslconfigファイルを、以下の内容で作る。
 ※"\"はエスケープシーケンスになるので2つ続けること
[wsl2]
kernel = c:\\Users\\(Windowsのユーザー名)\\wsl2\\5.4.72-microsoft-standard-WSL2-custom\\vmlinux

手順8:wslをシャットダウンする

 PowerShellで、wslをシャットダウンする。
PS > wsl --shutdown

手順9:wslを起動し、unameでバージョンを確認する

$ uname -a
Linux earth 5.4.72-microsoft-standard-WSL2-custom #1 SMP Wed Mar 21 15:20:57 JST 2021 x86_64 x86_64 x86_64 GNU/Linux

 ビルド日時などから、今作ったカーネルで起動できていることを確認する。


以上で、カーネルのカスタムビルドから起動するまででした。

次回は、Linuxカーネルの仮想CAN通信を有効にします。

2021/03/18

WSL2のカーネルを自分でビルドして使う

 WSL2でubuntuをインストールすると、/lib/modules以下がカラなので、PC上で仮想CAN、仮想GPIOなどのドライバが使えなかったり、ローダブルカーネルモジュール(LKM)のビルドができません。
 このため、Linuxカーネルのコンフィグからこれらのオプションを有効にしたり、LKMをビルドできる環境を用意する必要があります。
 まずは、WSL2のLinuxカーネルを自分でビルドして使えることを確認します。

●今回の環境

 Windows10


 ディストリビューション

 カーネルバージョン

今回はカーネルのコンフィグはWSL2デフォルトのままビルドします。
今のカーネルバージョンが5.4.72なので、同じ5.4.72を使います。
仮想CANを有効にしたカスタムビルドは次回行います。

●ビルド手順

手順1:カーネルソースをダウンロード

 カーネルのソースコードはGitHubのMicrosoft公式のものを使用します。
$ curl -OL https://github.com/microsoft/WSL2-Linux-Kernel/archive/linux-msft-5.4.72.tar.gz
 → linux-msft-5.4.72.tar.gz ファイルができる

 解凍します。
$ tar -zxf linux-msft-5.4.72.tar.gz
 → WSL2-Linux-Kernel-linux-msft-5.4.72 ディレクトリができる

手順2:カーネルのビルドに必要なソフトをインストール

 カーネルソース内の README-Microsoft.WSL2 ファイルの2に書かれているツールをインストールします。
ただし、これaptでインストールするのに、sudo とinstall の間に apt が抜けているので、aptを追記して実行すること(昔から抜けてる。いいかげん直しなよ。。。)
$ sudo apt install build-essential flex bison libssl-dev libelf-dev

手順3:カーネルをビルド

$ cd WSL2-Linux-Kernel-linux-msft-5.4.72
$ make KCONFIG_CONFIG=Microsoft/config-wsl
 → vmlinuxファイルができる

手順4:vmlinuxファイルをWindows側へコピー

 コピー先は任意の場所を使用できるが、Windowsの領域へコピーする。
 今回の例では、Windowsの%USERPROFILE%ディレクトリの下にwsl2/5.4.72-microsoft-standard-WSL2ディレクトリを作って、そこへコピーすることにします。
 ※(Windowsのユーザー名)は各環境で変えること
 ※%USERPROFILE%ディレクトリ = c:\Users\(Windowsのユーザー名) のディレクトリ
$ mkdir -p /mnt/c/Users/(Windowsのユーザー名)/wsl2/5.4.72-microsoft-standard-WSL2
$ cp vmlinux /mnt/c/Users/(Windowsのユーザー名)/wsl2/5.4.72-microsoft-standard-WSL2

手順5:.wslconfigファイルで使用するlinuxカーネルを指定する

 %USERPROFILE%ディレクトリの直下に .wslconfigファイルを、以下の内容で作る。
 ※"\"はエスケープシーケンスになるので2つ続けること
[wsl2]
kernel = c:\\Users\\(Windowsのユーザー名)\\wsl2\\5.4.72-microsoft-standard-WSL2\\vmlinux

手順6:wslをシャットダウンする

 PowerShellで、wslをシャットダウンする。
PS > wsl --shutdown

手順7:wslを起動し、unameでバージョンを確認する

$ uname -a
Linux earth 5.4.72-microsoft-standard-WSL2 #1 SMP Wed Mar 17 20:42:16 JST 2021 x86_64 x86_64 x86_64 GNU/Linux

ビルド日時などから、今作ったカーネルで起動できていることを確認する。

以上で終わりです。

次回は、カーネルのカスタムビルドを行います。